C02 中脳-線条体の予測誤差・サリエンスの機能的・構造的局在から妄想・幻覚を解明する
サリエンス(salience)とは「目立つ」刺激に対して自動的に注意をひかれ、重要と感じることです。サリエンスの計算論的な定義の一つは、予測と実際の入力との誤差(予測誤差)の絶対値というものです。動物では中脳-線条体のドーパミン神経のうち腹内側が予測誤差、背外側がサリエンスをコードするというgradientあるいは局在性の報告があります(Matsumoto & Hikosaka, 2009; Menegas et al, 2017)。ヒトでこのような局在性が存在するかは分かっていません。
また、統合失調症では中脳-線条体におけるドーパミンの過剰により、通常の刺激に過剰なサリエンスが帰属されることで妄想や幻覚が形成されると想定されています(異常サリエンス仮説:Kapur, 2003)。私たちは線条体の機能的結合性(活動の同期性)が実際に妄想の形成・重症度と相関することを世界で初めて明らかにしました(Miyata et al, 2024. DOI:10.1111/pcn.13652)。一方、妄想や幻覚の形成と関わるのが中脳-線条体の腹内側なのか背外側なのかは見解が一致していません。
この研究課題では、脳領域間の機能的結合性を推定できる安静時の機能的MRI(fMRI)、白質線維のつながり具合(構造的結合性)を推定できる拡散MRI、および予測誤差・サリエンスに関わる課題を用いて神経活動を推定するfMRIにより、ヒトにおける予測誤差とサリエンスの局在と、それらのどちらが妄想・幻覚と関わるのかを明らかにします。
研究協力者
福永 雅喜
自然科学研究機構 生理学研究所 特任教授
研究協力者
李 軼男
京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座(精神医学) 博士過程