公募研究の募集について
2023年7月26日(水)のオンライン領域紹介&公募説明会の動画はこちらのリンク先で閲覧できます。
https://www.youtube.com/watch?v=yf-AMQ8nPdA
説明会当日の質疑応答について、ページ下部に情報を掲載しました。
① 領域の概要
脳の計算原理を解明し、生物のように考える人工知能を構築することは、自然科学と情報工学における最大のフロンティアである。人工知能はこれまで神経科学からヒントを得ることで発展し、特に特徴抽出と強化学習において大きな成功を収めてきた。しかしそれでも、人工知能と人間の知能の間には未だ大きなギャップが存在する。
生物は外界のダイナミクスを表す「生成モデル」を脳内に構築することで外界の状態を能動的に推論・予測し、将来のリスクを最小化するように行動を最適化している。このような生物の予測と行動の基盤となる脳の情報理論として、ベイズ脳仮説や自由エネルギー原理等の理論が提案されてきた。最近では自由エネルギー原理が脳の統一理論の候補に挙げられているが、理論の抽象度が高く、生命現象との対応付けはこれまで困難だと考えられていた。しかし、最近の脳科学における実験技術の発展によって細胞種の特定や複数の層、領野を対象とした高精度大規模データの取得が可能となった事に加え、理論面でも神経回路ダイナミクスと神経活動モデルから導かれる生成モデルを一対一に対応付ける生成モデルのリバースエンジニアリング手法が開発された事で、脳と心の理解に極めて重要な「生物が持つ生成モデルを実験データから同定すること」が現実的になってきた。
そこで本研究領域では、脳の神経活動を高精度・大規模に取得し、データから脳が持つ生成モデルをリバースエンジニアリングすることで様々な脳の情報理論を検証し、予測と行動の統一理論の確立を目指す。そのためにサカナ・ネズミ・サル・ヒトを含む様々な生物種を対象として外界の予測や行動に関連する神経活動を計測し、実験データから構築した生成モデルが動物の脳活動や行動、学習に伴う脳活動や行動の変動を予測できるかテストすることで理論を検証し、改良・拡張する。理論と実験の双方性の連携を中核として研究を進めることで、知覚的な予測と行動の計画・生成を統一的に説明可能な脳の統一理論を確立し、ヒトのように考える人工知能や精神疾患の早期診断手法の開発への道筋を開拓していく。
② 公募する内容、公募研究への期待等
計画研究の代表者はA班:計算神経科学・情報理論・機械学習、B班:神経科学・神経生理学・精神医学という各専門分野の研究者であるが、予測と行動の統一理論の開拓と検証を行うためには、計画研究とは異なる視点に立つ発想や、オリジナリティーの高い技術や解析手法・理論も相補的に組み合わせる必要があり、専門分野も幅広い分野から募集する。とりわけ理論と実験を繋ぐために必要なデータサイエンスを行う提案や、公募研究と計画研究の共同研究による相乗効果の大きさも重視したい。例えば、領域全体の実験データ取得からデータ解析・理論構築という流れを意識した上で、計画研究では扱わない機能や計測スケールの実験データを有する公募研究と計画研究の理論研究者との共同研究、計画研究で絞られた生物学的ターゲットを計測・制御する独自の技術をもつ公募研究との共同研究、公募研究者の独自の理論を計画研究のデータで検証する共同研究などが考えられる。本研究領域の発展には多才な人材による公募研究が極めて重要な役割を担うと考えている。特に柔軟で新しい視点を有した若手研究者や女性研究者の積極的な応募を期待する。ポスドクや研究補助員を雇用して展開すること等を想定した年間1千万円を上限とした研究と、年間500万円、年間300万円を上限とした研究提案を募集する。
C01:統一理論に関する理論的研究 普遍理論構築につながる理論研究や、予測や行動に関連する具体的な脳機能を対象にした独自の視点を持った理論の提案、計画研究の計測データや既存のデータベースを活用したデータ解析により理論の検証を行うような提案を募集したい。また、人工知能応用も重視し、スパイキングニューラルネットワークによるエネルギー効率の高い計算方法の実装などを含め、次世代人工知能開発につながるようなアイデアを含む提案も募集する。
C02:統一理論に関する実験的研究 動物またはヒトを対象とし、予測や行動に関連する脳の神経活動を高精度・大規模に取得するためのオリジナリティーの高い計測技術や解析手法を有した提案を募集したい。必ずしも生物学が専門のバックグラウンドである必要はない。様々な動物種を対象とした提案を募集する。生体情報の制御・操作に重点を置き、それにより因果関係にまで踏み込んで理論予想の検証をするような提案も募集したい。
③ 公募する研究項目、応募上限額、採択目安件数
研究項目番号 | 研究項目名 | 応募上限額 (単年度当たり) |
採択目安件数 |
C01 C02 |
統一理論に関する理論的研究 統一理論に関する実験的研究 |
1,000万円 500万円 300万円 |
4件 7件 5件 |
④ 公募要項、様式
公募要項、様式については文部科学省のWebページをご覧ください。
Q&A
Q:単年度あたりの予算が3段階に分かれていますが、予算金額ごとに採択を決めますか?それとも採択者を先に決めて、配分予算を決めますか?
A:まずは予算金額を決めてご応募ください。減額して採択させていただく場合もございます。(例:1000万円→500万円、500万円→300万円)
Q:「様々な生物種を対象として外界の予測や行動に関連する神経活動を計測・・・理論を検証し、改良・拡張」とのことですが、実験的研究だけ、もしくは理論的研究だけでも対象となりますか?また、単細胞生物が外界の予測をして行動を行うといった、明確な脳を持たない生物を用いる場合でも対象となりますか?
A:なります。「予測と行動の統一理論」の構築や検証へどんな貢献ができそうかや、領域内の連携などでどのようなシナジー効果がありそうかをアピールしていただければと思います。
Q:理論と実験(実装)を組み合わせて統一理論を作っていくとのことですが、横のつながりや組み合わせのパターンについては決まっているのですか?誰か(何か)を中心として、理論と実装を発展させていくと言う方向性なのか?
A:基本的には応募いただく方の自由だと考えています。計画班のだれかとの具体的な共同研究について述べていただいても良いですし、ご自身の理論や実験の独自性をアピールしていただいても良いです。我々としても、まだ決定版の統一理論があるとは考えていないので、同時並行的に様々なアプローチをとることが重要だと考えています。
Q:企業に所属していますが応募の資格はありますか?純粋に提案内容で審査されるのでしょうか?
A:申請いただくには所属機関に科研費申請資格があることが必要になります。書類提出いただいた中からは純粋に提案内容で審査いたします。
Q:実験班の申請として、純粋な計測技術や操作技術の提案は可能なのでしょうか?
A:可能ですが、計測・操作技術の完成そのものをゴールとするのではなく、統一理論の検証と紐付けて有用性をアピールしていただければと思います。
Q:領域会議や領域シンポジウムはどのくらいの頻度で、どういった形式で開催予定でしょうか。ハイブリッドでの開催やYouTube配信もご検討されていますでしょうか。
A:メンバー限定の領域会議は年2回オンサイト開催していきます。一般公開のシンポジウムについては、決まり次第随時告知していきます。基本はオンサイト開催を想定しています。それとは別に、今後オンラインチュートリアルシリーズとして講義動画を当領域のYouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/@unifiedtheoryjp)に公開していく予定です。
Q:分担研究者を置くことは可能でしょうか?
A:学術変革領域研究(A)(公募研究)の公募要領(https://www.mext.go.jp/content/20230808-mxt_gakjokik-000030834_01.pdf)21・27ページに、「研究分担者を置くことはできません。(ただし、必要に応じて研究協力者を研究に参画させることはできます。)」と明記されておりますので、研究分担者を置くことはできません。(8/23修正)
Q:予測と行動の理論を考える上でベイズ脳仮説や自由エネルギー原理に注目する必要はありますか?それとも全く別の理論に注目して理論と実験の研究を行うという提案でも良いのでしょうか?
A:良いと思います。全く同じテーマを行うよりも互いに相補的になるようなテーマの方がより良いと考えているので、独自性の高い理論に基づく提案も歓迎です。いろいろな理論仮説を比較検討することが大切だと考えております。
Q:異なる行動課題を用いる場合も、計画班が行う行動課題とある程度共通する特徴を持った課題の方が望ましいのでしょうか?
A:共通性を持たせることは必須ではないですが、(知覚的)予測と行動に関連する課題であることが望ましいかと思います。
Q:もし公募班の実験グループとして参画することになった場合、提案されている共通の課題にも取り組むことになるのでしょうか?
A:必ずしも共通課題に取り組む必要はありません。提案いただく実験がどのように理論の検証や発展に寄与しそうかをアピールいただければと思います。