B01 階層的脳部位間の予測と予測誤差信号の伝達に基づく意思決定行動の制御機構
岡本は、ゼブラフィッシュ成魚の終脳にも、哺乳類の終脳の各部に相当する領域が存在するという最近の知見に基づき、体が透明な変異体の成魚の頭を固定し、尻尾だけが自由に動ける状態で、尻尾の動きが取り囲む景色の後方への移動に反映されるという閉ループ仮想現実空間を創出し、周囲の景色が青に変わると赤の区画まで泳がなければ罰せられる、逆に赤に変わると、その場に留まっていなければ罰せられるようなルールを学習させる課題で、魚をトレーニングし、その学習過程での神経細胞の活動をイメージングすることに成功した。その結果、周囲が青色になったとき、好ましいと予測される後方に移動する景色と、実際に見られる景色との間の予測誤差をコードする神経細胞集団が生成され、行動制御に反映されることを発見し、予測と予測誤差に基づく行動制御を可能とする仮説的神経回路モデルを提唱するに至っている(図)。また、ゼブラフィッシュの成魚同士が社会的上下関係を巡って闘争する場合に、手綱核・脚間核回路からの出力が、攻撃や防御のために必要な姿勢や知覚入力の予測を出力し、固有知覚などの内部知覚や、視覚入力などの外部知覚との比較・照合によって算出される予測誤差が、上位中枢での視覚・運動変換のプログラミングに重要な役割を果たしていると考えている。本研究では、この様に神経系の最上位の終脳だけでなく、手綱核・脚間核を含む脳幹部においても行われている予測と予測誤差の計算の実体と、それが脳の部位間の階層的相互作用によって行動の制御にどのように使われているのかを、脳全体が小さいが、その基本的構造が哺乳類と保存されているゼブラフィッシュを利用して、広範な脳部位の神経活動の同時計測を行うことによって、明らかにする。