予測と行動の統一理論の開拓と検証
領域概要

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脳の計算原理を解明し、生物のように考える人工知能を構築することは、自然科学と情報工学における最大のフロンティアです。人工知能はこれまで神経科学からヒントを得ることで発展し、特に特徴抽出と強化学習において大きな成功を収めてきました。しかしそれでも、人工知能と人間の知能の間には未だ大きなギャップが存在します。

 生物は外界の動態を表す「生成モデル」を脳内に構築することで外界の状態を能動的に推論・予測し、将来のリスクを最小化するように行動を最適化しています。このような生物の予測と行動の基盤となる脳の情報理論として、ベイズ脳仮説や自由エネルギー原理等の理論が提案されてきました。最近では自由エネルギー原理が脳の統一理論の候補に挙げられていますが、理論の抽象度が高く、生命現象との対応づけはこれまで困難だと考えられていました。

 しかし、最近の脳科学における実験技術の発展によって細胞種の特定や複数の層、領野を対象とした高精度大規模データの取得が可能となった事に加え、理論面でも神経回路ダイナミクスと神経活動モデルから導かれる生成モデルを一対一に対応付ける生成モデルのリバースエンジニアリング手法が開発された事で、脳と心の理解に極めて重要な「生物が持つ生成モデルを実験データから同定すること」が現実的になってきました。

 そこで本領域では、脳の神経活動を高精度・大規模に取得し、データから脳が持つ生成モデルをリバースエンジニアリングすることで様々な脳の情報理論を検証し、予測と行動の統一理論の確立を目指します(図1)。

図1.生成モデルのリバースエンジニアリングを用いた統一理論の検証

 そのためにサカナ・ネズミ・サル・ヒトを含む様々な生物種を対象として外界の予測や行動に関連する神経活動を計測し、実験データから構築した生成モデルが動物の脳活動や行動、学習に伴う脳活動や行動の変動を予測できるかテストすることで理論を検証し、改良・拡張します。理論と実験の双方性の連携を中核として研究を進めることで、知覚的な予測と行動の計画・生成を統一的に説明可能な脳の統一理論を確立し、ヒトのように考える人工知能や精神疾患の早期診断手法の開発への道筋を開拓していきます。

サカナ、ネズミ、マーモセットの脳の図の出典:

1. Nieuwenhuys, R., ten Donkelaar, H. J., & Nicholson, C. (1998). The central nervous system of vertebrates: With posters (Vol. 1). Springer Science & Business Media

2. Wulliman, M. F., Rupp, B., Reichert, H. (1996). Neuroanatomy of the Zebrafish Brain : A Topological Atlas. Birkhauser Verlag AG


領域計画書ダウンロード(2023.07.14 – 2.8 MB)


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vol. 1 – 2023